人材育成

関係人口が拓く地域の可能性

高まる「関係人口」への期待

進み続ける少子高齢化・人口減少の中、「関係人口」と呼ばれる地域外の人材への期待が高まっています。国の掲げる戦略では、関係人口創出は、東京一極集中の是正や地方移住の裾野拡大に向けた施策として位置づけられています。エブリプランでは、地域の持続可能性を高める施策として、邑南町において、関係人口との協働による地域課題解決のモデルづくりに取り組んでいます。

 
レポート①メイン:古民家をリノベーションしたゲストハウス「ミッケ」2.jpg
 

邑南町モデルの試行と実践

邑南町羽須美地域では、2015年頃から、過疎が進む地域を応援しようと、町外に住む若者が農作業やイベント運営を手伝うようになりました。その後、地域を走るJR三江線の廃線が決まると、住民を応援する鉄道ファンが地域に足繁く通うようになり、廃線後の鉄道資産の活用に向けた機運が高まりつつありました。

このような動きを発展させるため、邑南町では、2018年度、「地域イベント“INAKAイルミ”の継続」と「三江線の鉄道資産の活用」を地域課題のモデルケースとして、都市部および地域での協働プログラムを企画・実施し、関係人口創出のプロセスを試行・検証しました。

2019年度には、空き家改修の現場をフィールドとしたDIY実践講座「おおなんDIY木の学校」を開催し、都市部住民のDIYへの関心を入り口に、空き家リノベーションの担い手を募る仕掛けを試行しました。

 
レポート①サブ:INAKAイルミの準備2.jpg
 

価値変換と共感の仕掛けづくり

例えば、「おおなんDIY木の学校」は、地域側から見ると「空き家改修の現場」かもしれませんが、DIYer(DIY愛好家)から見ると「DIYの技能習得と実践の場」となります。関係人口を地域の力として取り組んでいくためには、このように解決したい「課題」を関わる人たちにとっての「価値」に変換する仕掛けが重要だと考えています。

加えて、住民自身の言葉で地域への思いを発信し、相互理解を深め、関わる人たちの地域への共感や愛着を育むことで、地域への再訪動機が高まることが分かりました。相互の関係を継続・深化させる上では、地域に対する共感を育むプロセスも欠かせません。

モデルから仕組みへ

羽須美地域での試行結果をもとに、邑南町では、関係人口を創出するような持続型・生産型の新しい観光の実現に向けて「観光やめます 関係はじめます」をキャッチフレーズに掲げた観光ビジョンを策定しました。そして2020年度には、地域の課題解決を目指す個人や団体を対象に、関係人口創出のノウハウを習得・実践する講座を開催し、地域の担い手育成の仕組みづくりに取り組みました。

邑南町の挑戦に関わる中で、地域が抱える課題を地域外に開き、幅広い人材を発掘・育成することは、人口減少社会の新たな可能性をひらくと確信しました。

 
レポート①差し替え:トロッコに手を振る地元の人たち2.jpg
 

おわりに

私たちは、島根県という課題の先進地から課題解決の先進モデルを生み出し、中国地方に、全国に、そして世界に発信していきたいと考えています。

今後も、地域に根差すコンサルタントとして、多様な地域の課題に寄り添い、前向きなチャレンジが生まれる環境づくりをお手伝いさせていただければと思います。

山陰におけるインバウンド拡大の取り組み

イノベーション推進部 研究員
村井 友利乃 Yurino MURAI

1.地方への外国人観光客の増加

2019年の訪日外客数は過去最高の3,188万人となり、増加を続けています。近年、訪日旅行での訪問地域は認知度の高い都市部から、まだ知られていない魅力のある地方部へ広がっています。しかし、これまで外国人観光客の受け入れが少なかった地方では、インバウンド向けにつくられた観光コンテンツがまだまだ少なく、受け入れ体制も十分に整っていない現状があります。

2.山陰でのインバウンドコンテンツ開発

 エブリプランでは、中国経済産業局の「島根半島・宍道湖中海ジオパークにおけるインバウンド誘客を核としたサイクリングツーリズムによる消費拡大事業」で、欧米豪出身のサイクリスト等を招聘した2泊3日のモニターツアーを実施し、該当エリアでのモデルルート開発に取り組みました。

このエリアには出雲大社をはじめとする歴史や文化の観光資源が多数あり、風光明媚な景色の中を、ジオパークの地形や自然を体感しながらサイクリングできる環境がありますが、外国人からの認知度は低く、簡単にこのエリアを楽しむことのできる仕組みも整っていませんでした。今回、地域のキープレーヤーを巻き込みモデルルートを開発し、商品造成につなげることができ、今後の送客も見込まれます。

 欧米豪富裕層マーケットでは、訪日旅行10日間で100万円を超えるサイクリング旅行商品が多数設定されています。地域へのインバウンド効果という意味では、量だけではなく質も重要です。今後、質の高い観光の提供が可能となり、より地域に関心を持っていただける方に訪問いただくことができれば、よい循環が期待できます。

3.山陰でのインバウンド人材育成の取り組み

また、山陰地域では、山陰インバウンド機構がインバウンド人材の育成プログラムを2017年から3年連続で実施しており、エブリプランとしても2019年度事業の企画・運営に関わりました。インバウンドの基礎情報の提供や、インバウンドビジネスの立ち上げのノウハウを提供など受講生のレベルに合わせた複数のプログラムを実施しました。こうした取り組みにより地域の人材が育っていくことで、地域の観光の質も上がっていきます。

4.観光地域づくり

インバウンドから、地域が享受できるものはたくさんあります。経済的な利益だけではなく、来訪者の地域への理解・関心を深め、地域との関りを生み出し、外からの視点で見られることで地域の人は土地の魅力を再認識でき、地域への愛着も生み出します。エブリプランはインバウンド関連業務を通じて地域の可能性を引き出すことを目指します。

結局、人。「大人の学び場」が秘める大いなる可能性 ~広島県ひと夢未来塾の運営業務を通じて~

●はじめに

 弊社は、平成27年度より、広島県中山間地域振興課が実施する「ひろしま『ひと・夢』未来塾(以下、「未来塾」といいます)」の企画・運営業務を担っています。本稿では、弊社が2年間にわたって担当させていただいた未来塾の運営を通して見えてきた課題、成果を整理し、「学びの場づくり」を通じた地域振興のあり方についての可能性を展望するものです。

●未来塾の概要

 「未来塾」は、広島県中山間地域振興計画に基づき、広島県の中山間地域が持つ価値へ共感・共鳴する人の輪づくりを行うことを目的に、塾形式の「学びの場」を提供することを通じて、中山間地域が抱える課題の解決を担う「人」づくりを行うことを目指すものです。

 「未来塾」は、「はじめの一歩コース」「プロフェッショナルコース」の2コースにより構成され、前者は「地域活動に関する自分なりの一歩を踏み出すこと」を、後者は「既に組織された組織・団体の経営課題解決」を目標として設定しました。

 両コースは、全6回のカリキュラムで構成し、座学、現地研修を通じて、各受講生自身による「アクションプラン」の作成と実行を促す内容となっています。

 
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●自分なりのアクションにつなげるカリキュラム

 百聞は一見にしかずという言葉があります。これは、たくさんのことを聞くよりも、実際に見ることのほうが何倍の価値があるという意味ですが、その故事は、「百見は一考にしかず、百考は一行にしかず・・」に続くと聞きます。つまり、聞いたり、見たり、考えたりするだけでなく、実際に行動することの重要さを説くものです。私たちは、未来塾の企画に際し、この考えを大切にし、受講による「自分なりのアクション」を促すカリキュラムづくりに留意しました。具体的には、講座実施時における次回までの行動目標の設定と実践状況の振り返り、講座と講座の開催期間中における各受講生への個別のフォローの実施、既に活動を実践する卒塾生との交流機会づくりなどを盛り込みました。

 これにより、多くの受講生に対し、座学・現地視察によるインプットのみならず、自分なりのアウトプットを促すことができました。

 
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●受講生の意識レベルをそろえる工夫

 第一期「未来塾」の開催に関する反省の一つに、受講生の意識レベル、受講目的が様々で、一体感づくりが必ずしも充分にできかなったことがあげられます。このため、第二期「未来塾」の開催に際しては、各コースの狙い、目標を踏まえ、各コースが対象とする人材像をできるだけ明確にし、カリキュラムの設計、募集活動等を実施しました。この結果、それぞれのコースに見合った受講生を確保することができ、スムースな講座運営が図られました。

 未来塾は、個々人のスキルアップと同時に、一定期間、学びの場を共有する受講生同士のつながりを生み出し、新たな活力を得ることも目的とします。多様性を確保するとともに、意識レベルの近い仲間を集めることで、塾終了後に続く人のつながりづくりに効果を得ることができました。

 
宿泊合宿

宿泊合宿

塾生によるプラン発表

塾生によるプラン発表

 

●やる気・本気を育む大人の学びの場の可能性

 二年間にわたり事務局として「未来塾」に関わらせていただく中で、同年代の大人が真剣に悩み、自分なりの答えを見出し、自らの殻を越える変化のタイミングに立ち合わせていただきました。それは、受講生自身が自らが選んだ未来へのスタートを切った瞬間であり、感動すら覚えるものでした。

 卒塾生の中からは、写真コンテスト、鹿肉を利用した商品開発など卒塾式で発表したプランの実践例が見られます。また、卒塾生同士の交流会が継続され、新たな仲間を巻き込みながら、ネットワークを拡大しています。

●おわりに

「中山間地域の課題解決を担う人材を育成する。」

 字面だけ見ると、きわめて硬い内容ですが、そこに込められた想いは、結局、課題解決を担うのは「人」であり、人の可能性を信じ、引き出すことの重要性だと思います。

 私たちは、未来塾の運営を通して、①志を同じにする仲間、②良質な学びの機会、③塾生の活動を支える体制が整った「大人の学びの場」は、多くの可能性を引き出し、新たなアクションを生み出すことを体感しました。今後も、様々な分野で「良質な学びの場」づくりを働きかけていくことで地域の可能性を引き出していきたいと考えています。

 
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