1.fMRIによる脳内の活動部位の可視化
MRI(Magnetic Resonance Imaging:核磁気共鳴画像法)は、磁気を用いて人間の体内を画像として可視化する技術です。磁石によって作られた磁場を利用するため、人体への影響はほぼないと考えられており、侵襲性の非常に低い検査方法の1つです。水素原子核を磁化させることにより水分を含む体内の部位を可視化させることができるため、水分量が多い血管や脳の診断に用いられています。
一方、fMRI(Functional MRI:機能的MRI)は、水素原子核ではなく、酸素を運搬した後のヘモグロビン(デオキシヘモグロビン)を磁化して検出します。血液の動きを画像化するため、脳の中の活動部位(血液を必要とする部位)を検知することができます。これにより、特定の刺激を与えた際に脳のどの部分が活性化しているのか、どの部分とどの部分が特定の活動に際して利用されているかといった脳内の機能的結合の研究に用いられています。
2.デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)の発見
ワシントン大学のマーカス・レイクル教授らは、fMRIを用いた研究により、何もしていない状態においても活発に活動する脳の部位が複数あることを発見して、デフォルト・モード・ネットワーク(DMN:Default Mode Network)と名付けました。通常、DMNには内側前頭前野、後部帯状回/楔前部、下部頭頂葉、外側側頭葉、海馬体などが含まれます。DMNの存在意義については研究者により様々な見解があげられていますが、明確にはなっていません。DMNの解析の際は、課題や刺激を与えず安静状態でfMRIを計測する安静時fMRI(rsfMRI:Resting-state fMRI)という手法が用いられます。
3.認知症の早期発見への利用
DMNを構成する脳領域は、記憶や認知機能をつかさどる領域と重複しています。DMNの研究が進むにつれ、アルツハイマー病患者で顕著な萎縮が見られる脳領域は、DMNを構成する主要な脳領域と重なっていることが分かりました。また、軽度認知障害の状態においてもDMNに異常が生じることが分かっており、rsfMRIにより認知症が早期に発見できることが期待されています。
4.島根大学での認知症研究
全国でも高齢化が急速に進んでいる島根県では、公益財団法人ヘルスサイエンスセンター島根(元 財団法人島根難病研究所)において、1988年に脳ドック健診を開始し、rsfMRI を含むMRI 検査、神経心理検査、ラボデータ、既往歴などの健康情報がセットになったデータが多数蓄積されています。
国立大学法人島根大学医学部内科学講座内科学第三では、上記の医学的利用価値の高い国内でも類を見ない貴重なデータに着目し、山口先生、小野田先生らによりrsfMRIを用いた認知症の早期診断法の確立に向けて研究が行われて来ました。
5.地域の医療情報資源の有効活用
エブリプランは、地域の課題解決の支援をするコンサルティング業務を20年以上にわたり提供しており、島根大学医学部との共同研究により、世界初の早期認知症の検出手法の開発を新規事業として進めています。認知症は、早期発見できれば改善プログラムの実施や投薬などにより、発症の抑制や進行の遅延も期待できます。
我々の取り組みは、世界的に高齢化が進行している昨今において、医療費の削減と健康寿命の延伸といった社会的課題解決に役立つものであり、地元島根に存在する貴重な医療情報資源を活用した我々にしかできない独創性の高い取り組みであると認識しています。
今後は、島根大学医学部の所有するrsfMRIデータを人工知能に学習させることにより、早期認知症のMRI画像診断サービスの早期事業化を目指し、島根発の先端技術を世の中に広めたいと考えています。